地球環境基金助成事業(2017-2019年度)

ヌスラト・ジャハーン大学にてプロジェクト関係者と

ヌスラト・ジャハーン大学にてプロジェクト関係者と

独立行政法人環境再生保全機構(ERCA; Environmental Restoration and Conservation Agency, Japan)の地球環境基金(JFGE; Japan Fund for Global Environment)の2017年度から19年度までの3年間助成事業に以下のプロジェクトが採択されました。

プロジェクト名「パキスタン国チニオット地域の飲用地下水の水質汚染への対策及び意識啓発」

現地実施機関:ヌスラト・ジャハーン大学ナシール教育文化振興財団(ミルザ・ナセル・アフマッド)

日本側代理人・共同研究者:一般社団法人国際環境協力ネットワーク(吉田充夫)

パキスタン・パンジャブ州の学校飲用地下水の汚染

ヌスラト・ジャハーン大学での本プロジェクトの講演会

ヌスラト・ジャハーン大学での本プロジェクトの講演会

iNehcは「パキスタン国チニオット地域の飲用地下水の水質汚染への対策及び意識啓発」プロジェクトに協力しています。

プロジェクトの背景: 

水質汚染は私たちの生活環境や生態系に大きな脅威をもたらすが、多くの開発途上国においては水質汚染が著しく、安全な水にアクセスすることはしばしば困難となっています。

パキスタン・パンジャブ州のような乾燥帯に位置する地域では、伝統的に地下水が安全な飲用水の水源とされてきました。しかし、人口が増大し様々な経済活動が営まれる中で、地下水は枯渇する傾向にあり、また水質汚染も進行してきています。

たとえば、生活排水や工場排水の不適切な廃棄によって、細菌やウイルス、重金属、硝酸塩等の塩類が地下水中に混入し、地下水汚染を引き起こしています。下水の不適切な処理による地下水汚染は感染症の原因になっています。ユニセフの調査によれば(UNICEF(2004 cited by PCRWR2011))パキスタンでは、汚染水に由来する疾病が入院患者の20-40%を占めるまでになって居ると報告されており、とりわけ幼児や児童にとっては非常に危険なものとなっています。

このような状況の下、飲用水源とされる地下水の水質を適切な指標をもとに評価すること、そして水質汚染に関する情報を学校など教育施設に提供することは、汚染水に由来する疾病を未然に防止するために極めて重要であると言えます。

本プロジェクトのパキスタンでの実施機関であるヌスラトジャハーン大学の研究者達は、これまでパキスタン国パンジャブ州のチニオット地域において地下水の水質調査を行ってきました。その予察結果によれば、同地域の地下水における溶存固形物総量(Total Dissolved Solid; TDS)、硬度(Hardness)、塩分濃度(Salinity)が極めて高く、こうした地下水汚染がスポット的に場所により進行している事が明らかにされてきました。汚染地下水を飲用している同地域の住民(総人口1,180,200人)の健康リスクは大変高いものと言え、かつ、高濃度の塩分は健康へのリスクであり尿路結石の原因にもなっていると考えられます。

しかし、パキスタン国及びパンジャブ州政府の財政事情は厳しく、給水のためのインフラは整備されていず、行政による安全な飲用水の供給もなされていないので、この地域において生活する人々は、独自に地下水を取水し飲用水にせざるをえない状況にあります。中でも同地域の学校施設(計894校,教員数3,643人,生徒数144,641人)では、汚染した地下水を飲用している場合、子供達に対する影響が大変懸念されます。

以上のような背景のもと、本プロジェクトでは、まず、それぞれの学校が利用している地下水の水質汚染状況を調査分析し、汚染地下水を飲用している学校では生徒の健康状況について調査を行い、これらの情報を整理したうえで、調査結果を各学校当局や教員・関係者に知らせ、汚染地下水の飲用の危険性に関する意識啓発を行いたいと考えています。

また汚染地下水の浄化のための技術オプションを検討し、あるいは代替の水源案を検討し、汚染地下水飲用による学校児童の健康リスクを低減する方法を提案したいと考えています。汚染の主原因の一つと考えられる家庭下水の処理方法の問題や簡易セプティックタンクの問題について理解を広めるために地域住民を対象とした啓発キャンペーンを行い、地下水汚染の進行を少しでもくい止めるように意識啓発を行いたいと考えています。また、地方政府に汚染地下水の問題や対策の必要性についての理解を求めていきます。

本プロジェクトは独立行政法人環境再生保全機構の提供する「地球環境基金」の2017-19年度「ひろげる助成」の支援を受けており、iNehcは共同研究者・日本の代理組織として活動しています。

iNehcは、2019年12月に東京ビックサイトにて開催された地球環境基金助成事業成果発表会にて「パキスタン国チニオット地域の飲用地下水の水質汚染への対策及び意識啓発」プロジェクトの成果を報告しました。また、学術的な成果については下記の論文を公表いたしました。

Mirza Naseer Ahmad, Saad Sattar, Jaleed S. Ahmad, Rashida Sultana (2018)

Analysis of Bacterial Load in Pre and Post-Filtered Drinking Water at the Educational Institutions of Rabwah, District Chiniot, Pakistan. Int. J. Econ. Environ. Geol. Vol. 9(2) 49-53, 2018.

Shazia Iram, Rashida Sultana, Maria Salah ud Din, Mirza Naseer Ahmad, Zainab Shamrose (2018)

Heavy Metal Concentration in Groundwater of Kirana Hill Region, Rabwah, District Chiniot, Pakistan. Int. J. Econ. Environ. Geol. Vol. 9(1)21-26, 2018

Rashida Sultana, Maria Salahuddin, Mirza Naseer Ahmad (2018)

Economic Impact Assessment of Brackish Groundwater in Kirana Hills Region, District Chiniot, Pakistan. Int. J. Econ. Environ. Geol. Vol. 9 (3)19-24, 2018

Mitsuo Yoshida and Mirza Naseer Ahmad (2018)

Trace Element Contamination of Groundwater Around Kirana Hills, District Chiniot, Punjab, Pakistan. Int. J. Econ. Environ. Geol. Vol. 9 (4), p.12-19, 2018.

Bashir Ahmed Tahir, Mirza Naseer Ahmad, Rashida Sultana (2018)

Access to Safe Drinking Water and WASH Facilities in Schools of District Chiniot, Pakistan and Awareness on Waterborne Diseases among Teachers and Students. Int.J.Econ.Environ.Geol., 9(4), 20-25, 2018

Mirza Naseer Ahmad, Rashida Sultana, Mitsuo Yoshida, and Maria Salahuddin (2020)

Groundwater Contamination Issues in Chiniot Area, Punjab, Pakistan. Int. J. Environ. Sci. Dev., 11 (3), p.123-127, 2020.